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07/24/2005

どうせ書くなら、面白がらせて欲しいのに

7月23日(土)
午後から事務所。夕方は、第7期講義。
「出版社が求める作家と新人デビュー」講師は、青木治道先生。

青木先生は、編集者で、出版社「青心社」の社長。ここの小説講座は、十数人いる講師のうち、ほとんどがプロの作家さんなので、編集者なのは青木先生だけ。ほとんどの出版社が東京に集中している中で、青心社は、大阪でエンターテインメント系の出版を続けられているめずらしい存在。編集者として、出版業界全般、事情にも詳しいが、マンガ出版もされていて(『アップルシード』などが有名)、ジュニアノベルやSFにもかなり詳しい。

前半は、現在の出版事情や作家の収入といった出版ビジネスのお話。プロ作家養成のクラスだし、一応、生徒さんもみんなプロ志望の人ばかりだから、さすがにかなり真剣な様子で話を聞いていた。プロの編集者からの話だから、やはり話の内容がリアルである。青木先生は、語り口がすごくソフトで、いつも穏やかな感じの方だが、やっぱり長年、編集者をされていて、しかも社長だけに、内容はちょっとシビア。「商売にならないと困る」という話。プロとして出版したいんだったら、ただ書きたいものを書くんじゃなくて、「読者」のために「おもしろい作品」を書いて下さいね、というような内容。後半の「編集者からみた創作のポイント」も、「読者にとっての願望充足」という話、これがないと「商品価値」がない、という話で、内容はかなり具体的である。

講義後、いつものように飲み会へ。7期の生徒さんの修了作品で、ちょっと気になるところがあったので、にぎやかなテーブルから離れて、2人でいろいろと話をする。私自身は、プロの作家でも編集者でもないので、基本的に作品指導はしない。一応、すべての作品のチェックはするが、よほど文章がおかしいとか、誤字がかなり多いとか、印刷が読みにくいとか、内容があきらかに変、とかいう時だけである。でも、そういう場合は、事前にそこを本人に確認して、その人が指導日までに直せそうだと思えば、やってもらうようにしている。これが精一杯だな、と思って、直せそうでない場合は、とくに言わない。だから、こういうことは、専攻科では滅多にない。というか、専攻科の生徒なら、まずそんな必要もないのだが、入学してまだ一年目のクラスだと、いろんなレベルの生徒さんがいるので、そういう作品がたまにある。やっぱり、あまりにも初歩的なミスは、わざわざプロ作家の講師に作品指導してもらうのはもったいない、と私は考えている。それくらいは、まず先に直しておいてから、それから作品指導をうけてほしい。その方が勉強になる。

で、その作品は、もう他の生徒さんたちに配布した作品なのだが(専攻科には30日に配布予定)、ただ講師に指導を依頼をする前に、どうしても確認しておきたいことがいくつかあったのである。修了作品だから、本人はとても時間をかけて書いた作品だろうと思うのだが、わからない所がけっこうあるのである。できればベストな形で、作品指導を受けた方がいい。

で、これは「本格ミステリ」の作品である。この小説講座は、昨年までミステリ志望者がやや少なくて、毎期せいぜい2名くらいなのだが、今年はミステリ志望がけっこういる。だから、作品が提出されるのをかなり楽しみにしていたのだが、実際、作品が提出されてみると、「ああ、本格ミステリって、やっぱり技術の差が一番ダイレクトに出てしまうスタイルなんだなあ」と思ってしまった。うーん。まあ、初心者なんだから仕方ないよね。で、この人の作品は、その本格ミステリ(早い話が「館もの」)である。で、やっぱり「本格ミステリ」スタイルの小説だと、言い訳がきかないというか、早い話が、トリックにないとどうしようもない……のである。まあ、ヘタでも何でもトリックがあればいいが、最初からないと、いくらなんでも、それはマズイ。たとえ世間は許しても、ミステリの読者は許さない。お天道様も許さないのである。

とにかく、すでに配布した作品だし、生徒さんならそれを読めばわかると思うんだけど、この作品は、犯人のアリバイがそもそも最初から成立していない。だから、警察が捜査すれば、すぐに犯人がつかまってしまうはずなのに、作品の中の警察は、それを何もしないで帰ってしまう。これは、マズイ。少なくとも、現代を舞台にした話なら、作中の警察はちゃんと捜査をするはずである。殺人発覚後、警察がちゃんと事情聴取もしていると書いてあるので、その時点で当然わかってしまうハズの犯人をつかまえないのは変。これは、さすがにマズイぞ。

たぶん、あまりにトリックが弱すぎて、どこにもトリックがないみたいに読めてしまうタイプの作品だと思うんだけど(初心者の書いたミステリだと何度かこういうことがある)、これはやっぱり困ったことで、だって、これだとそもそも「お話にならない」はずなのである。少なくとも本格ミステリにはなりにくい。だって、やっぱりどう考えても、ミステリの読者は「だまし」を期待している。とくにミステリを読むような読者は、ラストまでにいろいろな可能性を検討しながら読んでいる。さほどいい「ミステリ読み」ではない私ですら、「こんなトリックかな、いや、こんなトリックだったら、おもしろいけど……」などと思いながら読んでいる。この作品では、別荘の近くに印象的な池が出て来るから、この池のアレを使って、ここでこういうトリックがあると思わせておいて、実際には違うところに真相があるんだろうな、などと思ったりしながら読んでいる。ところが、この犯人は、もともとアリバイが成立していない人物で、しかも誰でもやりそうなやり方で犯行をしていたという、あたりまえな「真相」だから、これでは、普通のレベルの読者が考えていたトリックよりもツマラナイ結末になってしまう。これでは、どこを面白がっていいかちょっとわからないから、マズイ。

ところで、私は、小説のアイデア(ミステリならトリック)は、たぶん実は「思いつく」よりも「使いこなす」方が難しいのではないかと、いつも思っている。そりゃ、プロの作家さんたち、とくにエンターテインメント系の作家さんたちは、とにかく「新鮮なアイデア」(あるいは目新しい舞台、魅力的なキャラ、展開とか)と言うけれども、それはもともと彼らが、小説的な技術をすでに使いこなせているからこそ言えることで、生徒さんのレベルでは、アイデアを使いこなす技術が未熟だから、習作の段階だとそっちの方がたいてい深刻な問題だったりする。(もちろんありふれたアイデアでも「モノは書きよう」だったりするしね)

ところが、やっぱり読者としての立場から言えば、ただの「習作」というのは、やっぱりつまんない。仕事だから、生徒作品はみな読むんだけど、やっぱりアイデアというのは絞り出さないとダメだなと思う。早い話が、つまんないアイデアは、いくら上手に書けてても、やっぱりつまんないのである。なんといっても、やっぱりエンターテインメント小説は、おもしろくないと意味がない。私小説や純文学なら、また別のところで読ませる価値があるかもしれないが、エンターテインメント小説なのに、どこもおもしろくない話は、せっかく苦労して書いた人には悪いけど、それでは読み手には時間がかかってしんどいだけである。おもしろくするためのアイデアや工夫は、プロだって頭が痛くなるほど考えるわけだから、初心者だって、頭が痛くなるほど考えぬいた方がいい。少なくとも、その方が表現力が同じレベルでも、絶対にいい作品になるんだから、だんぜんトクである。

作品指導が終わってから、生徒さんに「アイデアとか、書き方とか、構成とか、まだまだもっと工夫ができそうなのに、なぜしないの」ということを聞くと、「いや、もう自分では精一杯です、もうコレ以上できません」ってことを、なぜか、いともカンタンに言う。でも、もし、本当に「プロ志望」なんだったら、本来は「もうできません」なんてことはカンタンに言っちゃいけないんじゃないかな、って思うんだけど、どうだろう。だって「仕事」で、もし、そんなこと新人がカンタンに言ったら、普通は怒られる。大工の棟梁なら「ほんなら辞めちまえ!」って怒鳴るかもしんないんである。それは、ホントにホントに、ホンマ死ぬほど努力しない限り、ゆうたらあかんで。だって、まだまだできるはずなんやから。

だいたい、そういう人に「あの作品のアソコは、こういう展開もできるのになぜしないの」と聞くと、なぜか「え?」という顔をする。「あっ!」いう人もいる。どうやら「考えてなかった」みたいである。ちょっと書き慣れた書き手なら、そういう展開にならない理由は(すでに一度は検討していて、それがダメな理由ははっきりわかっているから)、ちゃんと説明できるのだが、初心者は、どうも自分の作品をよく検討したことがないらしいので、ちょっと指摘されると驚く。でも、それくらい、どうして考えてみないのか、と、いつも、ちょっと不思議である。「それくらい、誰でも思いつくだろ?」ってことで、「あ、そうか」というからである。ってことは、その人は、ただちょっと思いついたものを、さほど検討しないで、いつも軽く書いているのだろうか。で、ほんの軽く書いたくらいで、なんとかなるだろうと思うくらい「読者はみんなバカだ」と思っているのだろうか。ほんまに気がつかへんならしょうがないけど、ほんまによく考えて書いたんだろうか。

やっぱ、「自分がただ思いついたもの」をカンタンに小説に書いちゃダメなんじゃないかと思う。読者だって、そんなこと書かれても、読むのが面倒なだけである。ちょっと思いついただけのものを、とくに「しかけ」とか工夫とかもせずに、ただダラダラ書いたらたいていダメである。まあ、初心者は、思いついたものを書きたい勢いで書いちゃうもんだし、まあ、教室なら、他の人も、タダだし勉強だから、仕方なく読むだろうけど、でも、見知らぬ他人なら、少なくとも、金を出してまで読もうとは思わない。

やっぱり小説というのは、ただの思いつきじゃない。だって、ただ思いつくだけなら、誰でもカンタンにいくらでもできる。例えば、朝なにげなく新聞を読んで、記事を見て、「ああ、でも、もしコレがああなっていたら」「もしコレが私のことだったら」「コレは実は違っていて、本当の真相は別にあるんじゃないか」なんてことを、ほんの数分、ちょっと考えるだけで、お話なんて、一日に何個も考えつく。ただの思いつきというのは、たぶんその程度のものである。でも、実際に、小説を書くのは時間がかかる。読む人も時間がかかる。だから、それくらいのものをカンタンに書いちゃダメである。エンターテインメント小説は、やっぱり読者のために書くものなんだから、自分が書きたいものをただ書いてもダメ。おもろいモノを書いてもらわないと困る。

でも、それは工夫さえすれば、絶対、たぶん誰にでもできるはずだと思う。ヘタでも何でもいいから、もう少し、いやもう少し、やれば、きっと、もっと面白くなるはずだ。そのもう少しが「絶対できません、もう無理です」というのは、たぶんおかしい。だって、まだまだできるはずだし、もっと面白くなるはずだから。だから、それをやらないのはヘンなのである。

ドキドキ、ワクワク、泣いたり、苦しんだり、驚いたり、じんとしたり…。竜に乗って大空を滑空し、世界の危機を救い、地獄から抜け出して、運命の恋人と出会うのである。ああ、なんでもいいから、多少むちゃくちゃでもいいから、とにかく面白いやつ。生徒の皆さん、お願いっ、そういうの、待ってます。

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